2005年08月04日

"ヒロシマ"の風化≠核戦争の危機

 NHKのドキュメンタリー番組『クローズアップ現代』を見た。今日のテーマは『"ヒロシマ"が伝わらない』と題して、原爆の記憶が風化している現状を打開するための教育関係者の取り組みを紹介したもの。以下はNHKwebサイトによる番組紹介。
“ヒロシマ”が伝わらない

 今年NHKでは日米で3900人に対し、大規模な原爆意識調査をおこなった。「広島への原爆投下」を8月6日と答えられたのは全国で38%、広島でも74%にとどまり、被爆体験の風化が実証される結果となった。一方アメリカでは今も57%が原爆投下を「正しい判断だった」と答えている。核兵器廃絶と平和な世界の実現を訴えてきたヒロシマ。しかし、その目標達成の時は遠ざかっているのが現実だ。番組では平和教育の実践に悩む広島の教師と、原爆投下の是非をディベートするアメリカの教育現場などをルポ。"消えゆくヒロシマ"の実態を浮き彫りにするとともに、どうすれば被爆体験を継承できるのか、そのヒントを探っていく。
(NO.2124)

スタジオゲスト : 森滝 春子さん
    (平和団体共同代表)

 私は番組に出演していた米国人女子学生の意見にある種の衝撃を受けた。彼女は原爆に関する文献を見たうえで、その犠牲者20万人を「大したことがない」と断じていた。戦闘による死者ならば理解できるが、民間人の20万人という数は過去に例がなく、非戦闘員の殺傷を禁じるジュネーブ条約に明確に反する。

 米国民が原爆投下を正しいと感じているのは無理からぬことだろう。米国は君主制を経験していないため、愛国心によって人心を掌握することがどうしても必要になる。番組で紹介されたシカゴの平和博物館は原爆の被害者に関する展示を行っていたが、見学者は1日に数人だという。愛国心を育てるために原爆の被害者に関する事実を隠蔽するというよりは、国民がこれらの事実に触れたがらないと云うべきかも知れない。無論、日本人から見た意見(例えば、『原爆は米国が行った人体実験にして最大の戦争犯罪』といったような)を主張することを止めるべきではない。

 番組では日本における平和教育についても言及していたが、私は今までの平和教育のあり方に疑義を感じざるを得ない。『平和教育』と言えば原爆被害者の衝撃的な映像を見せ、それについて感想を書かせると言う手法が一般的だが、この方法は結論が固定されているという点でむしろ洗脳に近いといえる。小学生にこの種の映像を見せることは強烈な心的外傷を生み出すことにもなりかねず、集団心理の効果もあって『あらかじめ用意された結論』への誘導が行いやすい。

 さらに、映像の大半は『核兵器の恐ろしさ』『戦争の悲惨さ』を強調するもので、原爆投下に至るまでの検証が全く無い。このエントリでは大東亜戦争の是非に関する言及は避けるが、多くは『軍国主義日本の侵略に対して立ち上がる正義の国アメリカ』と言う虚構を無批判に繰り返すのみで、このような姿勢は到底科学的とは云い難い。なお誤解の無いように述べておくが、歴史学は人文『科学』の一分野である。

 原爆の記憶が風化していると言う現状は予測できないものではなく、むしろそれが顕在化するまで放置していた運動家の怠慢といえる。また、彼ら反核団体の主張は米国あるいは日本を標的としたものが多く、中国(中共)及びロシアの核戦略を批判した例は寡聞にして知らない。この種の不徹底は団体の政治的信条に立脚しているので、反核団体が一般の支持を得られない理由にもなっている。

 番組は「ヒロシマの記憶を語り継ぎ、核戦争という最悪の結末に向かいつつあり世界に対して警鐘を鳴らしていくべき」というお決まりの主張で幕を閉じる。

 現在に至るまで核保有国間の戦争が起こっていないのは相互確証破壊(MAD;Mutual Assured Destruction)の原則が確立しているからで、反核団体の運動による成果ではない。警戒すべきは中国やロシアからの濃縮ウランに代表される核燃料物質の拡散である。テロリストは領土のように明確な実態を持たないがゆえにMADが通用しない。核戦争の危機は途上国やテロリストへの核拡散によるものであり、原爆の記憶が風化しているからではない。反核団体の近視眼的な主張は、事象を正確に理解したうえで現実的な判断を行わねばならない国際政治の場にあっては、むしろ害あって益なしといえる。
posted by 火銛 at 21:45| Comment(3) | TrackBack(0) | 時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
悲惨だからやめよう・・・で核が無くなっているものなら、戦争も犯罪も数千年前に無くなっているでしょうな。
Posted by TFTRDH at 2005年08月04日 23:25
核兵器の廃絶はもはや不可能でしょう。北朝鮮に核兵器関連の技術を提供したカーン博士の例を見ても明らかなように、いったん流出した技術は急激に拡散していきます。核戦争は絶対に避けたいところです。
Posted by 火銛 at 2005年08月05日 20:49





Posted by at 2006年05月11日 20:55
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